9 鈴木 慎也 氏 第3章 飲食業【株式会社esエンターテイメント 代表取締役】

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鈴木 慎也 氏


株式会社esエンターテイメント
http://www.es-entertainment.jp/

略歴
2006年7月 創業
2009年1月 法人化

事業内容
飲食店の経営
飲食店の運営企画


 

第3章

 

1.地獄

 

もしその時、僕が情熱と思いを持って現場に出て営業していれば、結果は違ったと思っています。

 

でも当時の僕はイケイケでしていた。

 

「今のうちの会社にはマーケティングの理論とマネジメントの仕組みの両方がある訳だから、自分は理論だけを考えていれば絶対上手く行く」

と勘違いをしていたんです。

 

お店はコピーペーストで何店舗も出店していけば、何年後には売上何億になって、逆にそうするにはこのタイミングで大型店をもう1店出店して、という安易な考えで経営をし始めていたんです。

 

「esイビザ」を出店してわずか5か月後に札幌駅前に「esダイナーズ」を出店しました。

僕も「esイビザ」の出店の時に3か月だけお店に入って、自分でお店をしっかり形作る前に、すぐに札幌駅での出店の準備に行きました。

 

 

ここから地獄が始まりました。

 

 

まず、それまで採用の面接は社員もアルバイトも全部自分でやっていたのを、その時から各店長に面接を任せました。

 

すすると、アルバイトの人たちがすぐ辞める、居なくなる、などトラブルばかり起こり始めました。

その時は「はじめは痛みを伴うものだ、しょうがない」と思っていました。

今度は、すすきののお店のお客様たちから僕にクレームが聞こえてくるようになりました。

これも「まあはじめはしょうがないか」と思っていました。

 

でもいよいよ当時幹部になっていたメグから

「仲間同士も酷い関係になっているし、お店の中が本当にまずいよ。崩壊寸前だよ」

と連絡がきたんです。

 

これはさすがにまずい、と思って、札幌駅のお店も開店してからまだ3か月しか経っていなかったんですが

「あっちがまずいから、お前たちに任せたから頑張ってくれよ」

と言って、また「esイビザ」に戻りました。

 

そうすると今度は札幌駅のお店が崩れていくんです(苦笑。

 

どっちも売上が下がっていく状態です。

 

当時、そうなる前は利益も出ていていたので、特に資金繰り表もつくっていなかったんです。

突然資金が厳しくなっていきました。

 

まず、自分の給料は払えません。

税金も分割にしてもらいました。

社会保険料の支払いも分割払いにしてもらいました。

そこまでしても2013年2月、遂に資金繰りで苦しくてその月の月末の支払いに対して800万円足りないという状態になりました。

 

「もう終わった」という状態です。

 

 

 

2.酒屋さん

 

でもここで僕は、逆にスイッチを入れなおして、資金繰りや、会社倒産などの本を10冊くらい買ってきてあさるように読みました。

それでも何か手を打とう、なんとかしよう、と考えて勉強したんです。

色々な知識はついたものの、その時点で知識がついてもどうにもなりません。

 

あとは支払いの猶予をお願いするしか方法がありません。

 

当社で一番支払いが多いのは酒屋さんです。

 

その酒屋さんには、月末の支払いが500万円くらいありました。

500万円を分割でお願いできないか、という話です。

 

そのことを酒屋さんの担当者に相談しました。

そうすると、酒屋さんの社長が僕に会いたいと言っている、ということでした。

 

 

酒屋さんの社長にお会いしに行きました。

 

お邪魔したら、その酒屋さんの社長も「おー、おー、よく来た」という感じで迎えてくださいました。

僕は資料もお持ちして、どういうように返済するかのご説明もするつもりでお邪魔したんです。

 

でもその社長は「ウチの会社もさー」とか「すすきのも昔はさー」みたいな全く関係のないお話をされるんです。

それでひとしきり1時間くらいお話されたところで、最後に

 

「で、あの件ね、(分割で)いいよ、いいよ」

 

とおっしゃいました。

 

 

僕は緊張して、資料も沢山持ってしっかりお話するつもりでお邪魔したんですが、その件について酒屋さんの社長の話は2秒でした。

 

 

「まあ、商売やっていればいろいろあるからさ。まあまあ、頑張ってくださいよ。」

 

 

 

で、終わりです。

 

 

 

(「カッコいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」)

 

 

ですよ。

 

その時から僕は、一生酒屋さんに価格交渉はしないことを決めました。

一生頭が上がりません。

 

本当にカッコよかったです。

 

 

 

3.自分の「es」(本能的欲求)に従い

 

それでもすぐに資金繰りが改善するわけではありません。

 

僕自身は何か月も給料を取らず、生命保険から借り入れをしたり、退職金として積み立てておいた分を取り崩したりしました。

そうしている間になんとか少しずつ売上が戻り始めて、となってきました。

 

そんな時、飲食店の先輩経営者の方から、大通り(札幌の大通公園近辺のエリア)のお店を売るからやってみないか、という話が来たんです。

買取りの支払いも分割でいいと言うのです。

これはチャンスだなと思いました。

大通りですから立地はいいんです。

当社の2店舗目として出店していたお店が、その時期、赤字ではないんですが利益も出ていなかったんです。

その店はビルの6階で営業していました。

大通の物件は路面店です。

その店を路面店に移転することで、利益が出る店にしたかったんです。

そうすると会社の経営にも貢献する店になります。

居ぬきで無借金で移転できる訳ですから、若干周囲の反対もありましたが決断して移転しました。

会社の状態を考えると絶対に失敗できない移転でした。

自分の脳みそを総動員して、周辺のマーケティングもしました。

更に当時東京で「俺のフレンチ」が流行っていて、アベノミクスがスタートした時期でした。

東京では高級食材を使用した、贅沢な料理を手軽に、というのが流行り始めていたので、これは札幌でも必ず来るな、と思い、その形態を札幌で一番初めにやろう、と決めたんです。

 

ビストロ&バー es (Bistro & Bar es)です。

 

自分自身も移転開店した日からお店に出ました。

移転してすぐに売上も利益もしっかり出ました。

売上が移転前の1.5倍から2倍の水準になりました。

ビストロ&バー es (Bistro & Bar es)

 




 

そこから、当時免除していただいた様々な分割払いも支払い終え、税金や借金も完済に向かっていきました。

この時期、自分の失敗を顧みる為に人と会うのを避け、自分と向き合うようになっていきました。

 

もともとesという会社は僕の自分がやりたいことをやっていこう、という本能的な欲求からスタートして、「自分」の価値観を中心にしていました。

それがいつの間にか、「あの店もこうやっているからこうしてみよう」と安易に不慣れなことに手を出したり、「どっかの会社が出店しているから俺も出店しよう」というような、他人を意識して経営をするようになってしまっていた自分に気づきました。

 

「自分の好きな仲間たちと好きなことをやっていこう」

という本来の自分の発想ではなく、他人への対抗心だとか、他人を意識した経営になってしまっていたんです。

 

お金をつかんでしまって、投資に回してしまったり、情熱を持たずに理論だけの戦略で出店してしまったりです。

 

それでも運よく会社として残っていることができたので、ここで一度「断捨離」をしよう、と決めました。

 

まず、自分の家の不要なものを全部処分してきれいさっぱりしました。

 

次は、会社からいらないものをできるだけ処分していきました。

 

そうしてゆくと、僕が料理をできないのに料理の店をやっていることもダメだ、と気づいたんです。

 

料理全般をお出しするのではなく、僕が好きな食べ物の何かに特化してお出しするなら勝てるものを作れるんじゃないか、と考えました。

 

それで、店の料理について、僕が大好きな「カキ(オイスター)と肉に特化だ」とすることにしました。

 

もともと肉が好きだったんですけど、その時期にアメリカに行って食べた厚切りのステーキを日本で手ごろな価格で出そう、と思ったんです。

 

まず改善するのは「esイビザ」です。

 

お金をかけないように、内装を全部自分たちでハンマーで壊して、リニューアルオープンすることにしました。

 

アメリカでステーキを見て帰ってきて、これだ、と思ったイメージの料理で、社内で試食会をしました。

すると、従業員から

「日本人だともっと小さいほうがいいんじゃないですか。カットステーキにしたほうがいいと思います」

「値段ももっと下げたほうがいいんじゃないですか」

という意見が出ました。

 

身近で真剣に考えてくれる人だからこその意見なので、ではまずはカットステーキを中心にしていって一応こういう厚切りもあります、というメニューに変えたんです。

 

そのメニューでオープン2日前にアルバイトさんたちを集めて研修・ロープレをやったんですけど、なんか僕の最初のイメージと違ったんですよ。

 

注釈:ロープレ:ロールプレイングのこと。 仕事の研修方法のひとつで、職場での役割を想定し、疑似体験を通して研修を行う手法のこと。

 

お客さん役の子が「ああ、おいしいですね」と普通に食べているんですが、僕が狙っていたのはそうじゃないんです。

これじゃ勝てる気がしない、と思いました。

 

その時の雰囲気にすごく違和感を持ったんです。

これなんか違う、と。

 

まず、実際にそれを売るアルバイトの子たちが食べ物を見て

 

「マジっすか!?これ食べていいんですか!?」

 

とならないと意味がないんです。

 

そこで、調理に指示して、かたまり肉でステーキを焼いてもらって白皿で出しました。

そうしたらみんな

 

「うわー!凄いっすね!!!!」

 

となったんです。

 

やっぱりこれだ!

と思いました。

オープン2日前です。

 

すぐその場で電卓をたたいて、価格を決めて、メニューを見直しました。

幹部には

「まずこれで1、2か月やらせてみてほしい。もしそれでダメなら札幌の人に合わせたサイズと価格に戻すから」

と説明しました。

 

どうしても厚切りのステーキでやりたかったんです。

 

しかも、従業員が「これ凄いっすね!!!!」「旨いっすね!!!」となっていますから、お客様にも本気でお勧めできるんです。

 

直前でメニューを変えてオープンしました。

オイスター&ステーキハウス es (Oyster & Steak House es)です。

 

すすきの:オイスター&ステーキハウス es (Oyster & Steak House es)

 

そうしたら大成功でした。

大当たりです。

同業他社の人たちも、視察も含めて沢山食べにきました。

 

札幌駅の店舗もこのオイスター&ステーキの形態に変えたら、やはり売上も伸びました。

オイスター&ステーキダイナー es (Oyster & Steak Diner es)です。

 

 

札幌駅前:オイスター&ステーキダイナー es (Oyster & Steak Diner es)




 

 

4.経営理念について

 

それまで、経営理念ってそんなに大事に思ったことが無かったんですが、何かにぶつかった時、自分に問いただす時に帰る場所、自分を振り返る場所として凄く大事だな、と気づきました。

 

実は社名の「es(エス)」って、正直いうと最初はノリでつけています。

僕のイニシャルがS.Sなので、エスにしたんです。

でも、それだけでは味気ないから、大学の時に学んだ心理学のes(=心理学の言葉で「本能の貯蔵庫」という意味)の意味を持たせたんです。

そうすると、僕は理性ではなくて、自分のやりたいことを求めて本能で考えて経営していく方がうまくいくことに気付いたんです。

 

それは何のためかというと「オモシロそうか、カッコいいか」というのが僕の判断基準です。

 

最初に飲食店を始めようと思った理由も「カッコいいなこれ!!オモシロそうだなこれ!!」から始まっているわけですから。

 

その後、経験を通して「俺」から「俺ら」になり、今の理念でもある「仲間たちをオモシロく、カッコよくする」に繋がっているんです。

更には「飲食業をオモシロく、カッコよく」するっていうところまで繋がっています。

 

 

 

5.これからのes

 

今、僕が動いているのは、労働改革です。

新入社員は月に173時間以上働かせない、として、1分でも残業が発生したら残業代支給、としました。

有給休暇も付与して100%使ってもらうようにしました。

労働基準法を完全に順守です。

お店の営業時間も短縮して働きやすい環境にしました。

人員も増加しました。

その代わり労働生産性を高める方向にしたんです。

従業員一人当たりが創出する付加価値増加です。

これがあれば労働時間を短縮しても、逆にみんなの給料を上げてあげれるんです。

少ない時間でもみんなで価値を作っていくことを考えれば、これが実現できるんです。

 

今、お店の営業時間を短くして、従業員の給料を良くしたら、逆に売上高は上がってきています。

まだ始めたばかりの試みですから、どうなるかわかりませんが、今のところは順調に進んでいます。

 

やっと描いていた「飲食業をオモシロく、カッコよく」に近づいてきている感じです。

 

これをもっともっと色濃く全ての店舗で実現していきたいと思っています。

 

僕は、この会社を僕だけの会社ではなくて「自立と依存」というテーマで、「組織」ではなくて「チーム」としてフラットな仲間として運営していきたいと思っているんです。

同じゴールに向かうために、それぞれの持っているes(本能的欲求)をぶつけ合って、give&giveで提供し続ける、という集合体になれたらもっと会社の付加価値も高まって、もっとブランディングもされて、売上も上がっていくし、その分みんなにもフィードバックできるし、そして何より超楽しいし、となるんです。

 

これを実現したいんです。

 

だから僕もこのタイミングで、自分のes(本能的欲求)を実現するための新会社を登記しました。

「株式会社es」です。

この会社は原点回帰の為に僕一人でやっていく会社です。

 

また僕一人、バーテンダーからはじめて、バーで作っていくエンターテイメントとそこで生まれるコミュニティーが好きなので、それをあえて、今これだけの経験をしてきた自分が路面でバーをやったらどこまで何ができるんだろう、というチャレンジです。

もう一回やってみよう、ということです。

 

今の会社は、僕がいないところでも段々自分たちで良くしていこう、という動きになってきているので、あとはあえてその流れを崩さないようにしながら、僕は僕でまた新しいチャレンジをしよう、ということです。

 

 

6.起業を目指す人へのメッセージ

 

何故起業するのか、経営者になるのか、独立するのか、をもう一度しっかり考えて、認識してから始めてほしいと思います。

 

それに答えられないで起業したら絶対に失敗します。

 

経営って大変なんです。

なんのためにこんなに大変な思いをしてまで経営者になるのか、をしっかり自分に問うてほしいです。

答えがその時々で変わってもいいんです。

自分に常に問い続けることです。

暇さえあれば問い続けてほしいんです。

それが「信念」になって、会社の「理念」になってくるんです。

 

僕はesです。

 

皆さんはなんのために経営者になるんですか。

 

答えをしっかり持っていてほしいと思います。

答えはシンプルの方がいいです。

人間の考えなんてそもそもシンプルなはずです。

 

理念はその先には経営戦略になり、会社のブランディングになってきます。

 

「何故経営者になるのか」の答えを持つ事は、これからの経営には絶対に必要なことだと思います。


2018年3月1日(木)
鈴木代表自らが店に立つ新店オープン!
店名:es
住所:南4条西3丁目Nプレイスビル1階 
     ※前キュリアスフォックス

お酒を通じて楽しい空間を作ることをゼロからやってみたい
もう一度原点であるバーテンダーからやり直そう(鈴木氏)